『カンカンカンカン、はい、起きてーっ!』
ホワイト・ヘイヴン市内、シリルとリディアの自宅。土曜の朝8時。マーカスはフライパンを持ってシリルの部屋に乗り込み、大きなスプーンでフライパンを叩いてシリルを起こしにかかる。シリルは羽根枕を両手で引っ掴むと、頭を枕の下に入れて逃げの体勢に入る。
『はーいはいはいはい、今日は何の日ですかー?大事なお出かけの予定が入っているんじゃないんですかー?』
マーカスはフライパンを叩きながらシリルのベッドの周囲を練り歩いて回る。
『……んもうっ!!そのフライパン踊りやめろって!頭が割れるわ』
『目玉焼き作ったんだぞお、一緒に食べて出かけようや』
シリルは相変わらず布団にもぐったまま、何かごにょごにょと口走っている。マーカスはフライパンとスプーンをじゅうたんの上に投げ捨て、勢いよくベッドに飛び乗って布団を引っ剥がした。
『ほおら!起きて、シャワー浴びて、着替えて、飯食って。せっかくだから、俺も連れてけよ?』
『……行かん、行かんわ……』
シリルはウトウトしながら拒否・抗議をする。
『ダメだ!行・く・の!なんなら俺も一緒に風呂入るぞ?俺の裸見たいだろ?朝いちばんの最高の起爆剤だ』
『アホかお前は……俺は行かん、行かん……』
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1時間後。結局シリルはマーカスの猛攻撃を受け、身支度を済ませる。台所のシンクに洗い物を投げ込むと、マーカスはシリルの腕を掴んで2階の自分の部屋に連れて行き、大きな鏡の前に立たせる。そしてシリルの首に巻かれた濃い赤色のネクタイを整えると、背伸びをしてふざけ半分で頬にブチュウッと口づけた。シリルは一向に乗り気でない。
『なんでそんなにイヤなんだ?俺は楽しみだぞう』
『よくもまあそこまで盛り上がれるもんだな。お前だって、会ったからといって別にどうなるわけでもないだろうに』
『だって、ベビーだった頃のお前を知ってる人なんだろ?お前にもベビーだった時代があったわけだ』
『ベビーベビー言うな』
『いいじゃんよ、別に。さあさあ、もう出かけようぜ。イケメンの家で待ち合わせなんだろ?俺も目の保養ができて嬉しいわあ』
マーカスは頭を傾け、わざとうっとりとした表情でそう言うと、シリルの背中を押して1階の玄関へと連れて行った。