tête-à-tête 97

『グレービーソースは足りてる?シリル』

『はい、大丈夫です。ありがとうございます』

ホワイト・ヘイヴン市内のとあるレストラン。午後7時37分。マーティンはシリル、マーカス、ブリジットそしてヨハンネスの4人を一度自宅に集めてから、予約を入れておいたこの店へと引き連れていった。広い店内の中央に位置する、大きなシャンデリアの真下の円卓で、5人は夕食をとっている。シリルは少し気恥ずかしそうな顔でうつむき、小さな茹でじゃが芋にナイフを入れる。シリルの隣ではマーカスが笑顔でローストビーフを食べている。ブリジットはマーカスにも声をかけ、グレービーの入った器を回そうとする。

『あなたはどう?マーカス』

『ありがとうございます、喜んでいただきます』

マーカスはブリジットから器を受け取ると、レードルで豪快にソースをすくい、ローストビーフと茹で野菜の上にかける。そして自分の隣にいる【イケメン】にも器を手渡した。マーティンは微笑んで、両手で器を受け取る。

『マーカスとはずっと以前から同居してるの?』

ブリジットはクレソンのサラダをつつきながらシリルにたずねる。するとマーカスはナイフとフォークを置いて、ピンと背筋を伸ばして答えた。

『はい、俺はシリルの飼育係です』

マーティンはそれを聞いて吹き出した。当のシリルはテーブルの下でマーカスの脚に軽く蹴りを入れる。ブリジットもヨハンネスと目を合わせて笑っている。赤ワインを飲みながらヨハンネスはマーカスに言った。

『随分と楽しそうだね、君たちふたりは。シリルくんには毎日どんな【飼料】を与えてるんだい?好きな食べ物、って意味だけども』

マーカスは胸を張って答えた。

『はい、実はですね、実際の【飼料】を食い尽くすのは専らボクの仕事でして、毎月の食費をつり上げているのは紛れもないこのボクです。ちなみにシリルの好物はボクです』

シリルは再びマーカスの脚を蹴る。マーティンは笑いをこらえきれず、ワイングラスをマーカスと打ち合わせる。シリルは顔を赤らめふたりのほうを睨みつける。ブリジットはくすくす笑いながら、足もとに隠しておいたある物に手を伸ばす。光沢のあるロイヤルブルーの包み紙にくるまれたその四角い物を自分の胸元に持つと、ブリジットはマーティンとヨハンネスに目くばせをする。ふたりはこぞってブリジットに【イエス】のサインを目で送った。

『実はねシリル、』

ブリジットは軽く咳払いをして言った。

『私たち、ちょっと素敵なものを蚤の市で見つけたのね。これ、開けてみてくれる?』

シリルはその品をブリジットから受け取ると、黙ってゆっくりと包み紙を破いていった。そして包みを開いて中身を見るなり、口に手を当てて涙ぐんだ。

『えっ。どうしちゃったの?』

ブリジットもマーティンもヨハンネスも、予想外のことに慌てふためいた。マーカスだけが漠然とながらも事情を察知したらしく、テーブルの下で自分の脚をシリルの脚に擦り寄せた。

包み紙に入っていたのは、油彩の風景画だった。そしてそこに描かれていたのは、数日前にシリル自身が夢で見た、大きな川とその上に架かる橋の絵だった。橋の上を自転車で駆け抜ける男性の姿もあった。日傘のようなものを差して歩く、黒いドレス姿の女性もいた。すべてが夢で見たとおりだった。

そして作品の右下に目をやると、一部欠けてはいるものの、【ジョン・レイノルズ】という画家名がはっきりと読めた。シリルは大粒の涙を流して泣き始めた。マーカスは笑顔のまま、マーティン、ブリジット、ヨハンネスの前でシリルの肩に手を回してその頬に口づけ、3人にウインクをしてみせた。