tête-à-tête 100

シリルとリディアの自宅。教会から逃げ戻ってきたシリルは、2階の自分の部屋で画材を処分しようとしている。するとリディアが盆に紅茶とコーヒー、それからケーキを乗せて部屋にやって来る。リディアは部屋の隅にどかされたシリルの古い油彩画やデッサン画、イーゼルと筆とを見て、たずねた。

『どうしたの、そんなふうに山積みにして』

リディアはベッドサイドテーブルに盆を置くと、自分の質問には答えず黙々と片付けを続けるシリルの横に立った。

『この前、市場でパウンドケーキ買ったでしょ?まだ3分の1くらい残っていたから、一緒にどうかなと思って』

そう言ってリディアがそっとシリルの左腕に触れると、シリルはリディアの手を払いのけて泣き出した。両手で顔を覆ってむせび泣くシリルを、リディアは黙って見守る。シリルはリディアに背を向け謝罪の言葉を繰り返した。

『ごめん。ごめん。俺は自分の父親のようになってしまうのが、怖い、』

シリルは背中を丸め、壁に向かって思いのたけを吐き出した。

『俺はお前がいないと生きていけないのに。なのに今みたいに気持ちが揺らいでいると、これから先、お前にすら手を上げるようになってしまうんじゃないかと思って、俺は怖い、怖い、』

リディアはシリルに歩み寄り、その背中に手を置いた。するとシリルはすぐさま振り返り、リディアを力強く抱き締め、混乱した様子で脈絡なく叫んだ。

『俺はお前を抱きたい。どこにいても何をしていても、お前が欲しい。俺の人生のなかにお前を一生引き入れたい。お前しかないのに。俺は醜い人間だから、お前まで痛めつけて裏切るのが、怖い。親が憎い、世間が憎い、自分が憎い。今までこんなことを言うのは野暮だと思ってた。お前とのあいだには必要のないことだと思ってた。でも、』

リディアはシリルの胸に抱かれながら、彼の前に両脚でしっかりと立ち、あとに続く言葉を待った。シリルは両手でリディアの頭を抱えるようにして、彼女の体を強く自分に引き寄せた。

『結婚してほしい。俺と。一生俺のそばにいて、俺を助けてほしい、親父のようには、なりたくない!』

リディアはゆっくりとシリルから身を引き離し、微笑んで言った。

『うん。ありがとう。返事はね、イエスだよ。ただしひとつだけ、条件があるの』

不安そうに自分を見つめるシリルに対し、リディアは笑顔でその条件を提示した。

『憎しみの子はもうやめて、それからアヴァリエも、そう、もうやめるの』

シリルはまるで、すっかり自信を失ってうなだれている、ひ弱な少年のようだった。リディアの提案を聞いて頑なに首を横に振ると、悲痛な面持ちで言った。

『俺にはそんなことできっこない、無理だ、できないよ』

リディアはうろたえるシリルの両腕をしっかりと掴み、はっきりとした口調でひと言ひと言、彼に言い聞かせた。

『あなたひとりじゃできないかもしれない。私もひとりじゃできないと思う。だから、ふたりでやるの。ふたりでなら、きっとできる。私も、あなたとなら諦めないよ。最後までね』