tête-à-tête 101

翌朝、シリルの部屋。午前5時を回ったところ。目を覚ましたシリルは、自分の隣で眠るリディアをじっと見つめている。この子には化粧なんかいらない、シリルはそう思った。リディアは初めて会ったときから、周囲の女の子とは違っていた。他の子だったら気にして直しを入れたがるような、くっきりと生え揃った濃い眉毛。くせのある茶色い巻き髪なんて、雨の日にはいつだって【爆発】しかかっている。しかも上目遣いで話すときはギョロ目になってしまって、お世辞にも色気があるとか魅惑的だなどとは言えない。けれどシリルにはそういったことすべてが愛おしかった。そして、背中一面に創った無数の擦り傷と、手首の切り傷。痩せた体。その体ひとつでこの子は生き抜いてきたのだと、シリルはリディアのことを誇らしく思った。

シリルはいつものようにいたずらをしようと、リディアの眉毛を指でなぞってみた。リディアは右の眉毛をぴくつかせ、数回まばたきをしたあと、目を覚ました。

『おはよう、』

シリルはボサボサになったリディアの髪をゆっくりと後ろに撫でつけた。

『首も背中も、どこも痛くないか?大丈夫?』

リディアは満面の笑みでうなずく。そしてシリルの頬に手を伸ばし、そっと触れながら言った。

『あなたって右の鎖骨の上に、小さなほくろがふたつあるのね。長年一緒にいるのに、私そんなことすら知らなかった』

『俺もお前の両脚にふさふさの毛が生え揃っているとは、知らなかったよ』

『やだもう!あなた全然ロマンチックじゃないんだから』

リディアはわざと拗ねた顔をして布団から出ると、床に落ちたガウンを拾い上げ、袖を通そうとする。シリルは後ろ姿のリディアの肩に手をかけて言った。

『まだ着なくていい。化粧もしなくていい。お前はそのまんまで、とっても綺麗だ。昨夜は、ありがとう』

『どういたしまして、』

リディアは布団に戻ると、シリルの目を真っ直ぐ見て言った。

『ねえ、どう思う?もし私が私だけになって、マーカスもハンナもマークもいなくなったとしたら、それって【回復した】って言えるのかしら?』

『毎月の食費が正常な範囲内に収まるという意味では、確実に進歩だろうな』

シリルが冗談めかしてそう答えると、リディアはシリルの肩を叩いて笑った。

『いっつもそこばっかり狙ってくるんだから。でも、真面目な話、私たちがアヴァリエ脱けたら、マーカスは残念がるかもね』

『ストレス解消、ストレス解消って言っては撃ちまくってきたからな、あいつ。やっぱりあいつはこれから先一生、食費つり上げに貢献するんじゃないか?お前もあいつとは仲良くしてやってくれよ、でないと次は俺が食われる羽目になる』

シリルは腕を伸ばすと、再びリディアを引き寄せて言った。

『ありがとう。キミらは色気も食い気も最高だ。こんないい連中に囲まれておきながら不満を口にするとすれば、それこそ俺は地獄行きだわ』