tête-à-tête 102

ホワイト・ヘイヴン市内にある中央図書館分館。2月13日、土曜の午前10時。3階の児童図書コーナーでマーティンが資料を閲覧している。幼い頃、家に絵本という絵本がなく、親にも読み聞かせをしてもらったことのないマーティンには、子どもたちがどんなものを好むのか、古書店にどんなものを置いたらよいか、全くわかっていなかった。それで自分でも絵本を読んでみることが大切だと思い、休みの日にこうして資料にあたるべく、図書館にやって来た。

北風の強い朝だった。マーティンは久し振りに黒のウールコートに黒の帽子を被り、首からは縞模様の長いマフラーをだらりと垂らして棚の本を見て回っていた。

『失礼ですが、』

棚の最下段にあった数冊のシリーズものを見ようと、腰を落として手を伸ばしたときだった。とある男性がマーティンに声をかけてきた。

マーティンはかがんで片膝をついた姿勢のまま、顔を上げた。そして目の前にいる男性の顔を見たその瞬間に、彼の表情は固まった。

『久し振りだな、』

そこに立っていたのは自分の父親、フラン・レイノルズだった。フランは抑揚のない乾いた声でマーティンに声をかける。マーティンは緊張のためか、それともすぐさま立ち上がったせいか、頭にカーッと血が上り、足もとがふらついて立ちくらみを起こしそうになった。

『元気にやっているか』

マーティンは書棚に手をついて体を支えた。分厚いマフラーを巻きつけていたせいで、気がつけば首の周りにはじっとりと脂汗をかいていた。

マーティンはマフラーをほどいて息を吐くと、フランの問いにはひと言も答えずにその場を立ち去ろうとした。するとフランはマーティンのコートの袖に触れて彼を引き留めた。

『近いうちに、会って話ができないか?』

マーティンはフランに背を向けたまま、静かに答えた。

『あなたとお話することは、何もないと思いますが』

『私はお前が元気にしているか、ただそれを確認したいだけだ、』

フランは腕時計を見て言った。

『私ならいつもだいたい土曜のこの時間に、ここに来ている。お前の気持ち次第だが、会いたくなったら今立っているこの場所に来なさい。午前10時18分だ』

マーティンは静かに父親の手を払いのけ、一度も振り返ることなく、足早にその場を去って行った。