tête-à-tête 103

『確証はないけどとにかく隠れておこう、』

ホワイト・ヘイヴン市内の市場出入口から一歩入ったところにある、小さな横丁。リディアの腕を強引に引っ張り、買い物客のあいだを縫うようにして急いで市場を出たシリルは、リディアを建物の陰にかくまう。リディアは息の上がった様子でたずねた。

『飴、あなたに買ってもらった飴、どこかに落とした』

『いい、そんなことはどうでもいいから、』

シリルは壁から顔を出し、自分たちのあとをつけてきた人間がいないか、外の様子を見る。そして呼吸を整えると再び建物と建物のあいだに隠れ、リディアに言った。

『なあ。やっぱり、無理じゃないか。お前を守るためには、銃を棄てるわけには』

リディアはシリルの言葉を遮った。

『あの人がこの国にいるのはわかってる、でもさっきあなたが見た人があの人だって確証はないんだし』

『だけどもしまたあいつが、』

シリルは焦り始めた。

『もしまたあいつがお前に何かするつもりだとしたら、そのときは殺るしかないだろ?』

『無駄よ。死んだところでこの国からはもう誰も出て行けないんだし、正確には死ぬことも消えることもないんだし。それでももしやるって言うなら、私かマーカスが』

『何言ってんだよ、お前らにそんなことさせるわけにはいかない!』

シリルはもう一度外の様子をうかがう。80過ぎの老婆がひとり、買い物かごを抱えてそばの通りをとぼとぼと歩いているだけで、他には誰もいないようだった。シリルはリディアに目で合図すると、彼女の手を引き、馬車駅のある方面へと通じる抜け道に連れて行った。

ふたりが路地裏から立ち去ったあと、ひとりの年老いた男が駄菓子の包み紙を手にやって来た。男は包み紙を開けると、中に入っていた幾つもの淡い紫色をしたぶどう飴を見た。そして袋の口を丸めて閉じると、両手で撫でるようにして包み全体に触れ、コートのポケットにしまい込んで市場へと戻って行った。