tête-à-tête 110

マーティン、

 

親父さんと話す必要があるとき、他に落ち着いて話せそうな場所がないとき、使ってくれ。どうせ金目の物なんて何ひとつ置いてない、がらんどうの家だ。それにお前のことは従兄弟として信用している。人ん家の物を盗むようなヤツじゃないってことくらいは、わかってる。

もちろん、俺たちと話したいときの待ち合わせ場所として使ってくれてもOKだ。好きに出入りしてくれ。住所も記しておく。

 

それじゃあ、また

 

1901年2月16日

シリル・レイノルズ

 

レニー・クレセント

a8 q4

(三日月型した通りのちょうど真ん中の家だ)

 

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1901年2月21日。夜の11時過ぎ。マーティンの自宅。マーティンは浴室で泡風呂に浸かり、石けん水でシャボン玉を作って飛ばしながら、ぼんやりと考え事をしている。白い陶器でできたバスタブの横には小さな棚があって、その棚の上にはシリルからの手紙と1本の鍵が置いてある。マーティンはシャボン玉を吹くのに使っていた鉄のストローをバスタブの縁に乗せると、右手を伸ばして棚の上の鍵を掴んだ。

『合鍵いただいちゃったよ、』

マーティンは鍵を顔の中心に持ってきて、寄り目になるまでじいっと見つめた。

『親父さんと話す必要があるとき、かあ。僕はむしろレイチェルに会いたいよ、シリル』

マーティンはついついレイチェルの姿を思い浮かべて、大きな溜め息をついてしまった。そして鍵を棚の上に戻すと、勢いよく全身をバスタブの湯に沈めて潜った。数秒後、上半身を起こすと、泡だらけの顔と髪を両手で拭い、もう一度大きく溜め息をついた。

『これじゃレイチェルにも叱られるな。元哲学者だってのに、親の前となると話すべき内容も言葉も、戦術すらも見つからないよ。それだけ僕はバカで従順な子どもだったってこと?ああもう、ウンザリ!』

マーティンは心からやけっぱちで叫んだ。そしてその声だけが浴室じゅうに虚しく響いた。バスタブの縁に寄りかかると、マーティンは片手で頬杖をつき、しばらくのあいだひとりそのままの姿勢で拗ねていた。