tête-à-tête 111

『あいつ、もしかしたらこういう場所で落馬して死んだのかもな、』

ホワイト・ヘイヴン市の西の郊外にある、広大な自然公園。シリルは氷の張った池のそばで佇み、リディアのほうを向いて笑った。3月も目の前だというのに、この国の景色はどこへ行っても中途半端に雪解けしたぬかるみ道やつららの垂れ下がる家屋ばかりで、池の周りの葦を照らす太陽の光も、目に痛いほど白い。リディアは分厚い毛糸の赤い手袋をはめたまま、シリルの手を握って言った。

『マーティンさんって、馬を乗り回すような人にはとても見えないよね』

『きっと今みたいに荒んでたか、それとも女にモテたくてええ格好しいでやったかのいずれかだな』

シリルは大きく口を開けて笑ったが、顔の前は吐く息で真っ白になった。葦の茂みの一部分を厚底のブーツで踏みしだくと、シリルは池の底を覗く仕草をした。

『氷張ってて見えないけど、ここ、どれくらいの深さなんだろうな?下では鯉でも泳いでるかね?』

『小銭を落としたら、池の妖精が出てきて言うんじゃない?【この硬貨を落としたのはお前か?】って』

リディアはシリルの腕を取り、冗談めかして言った。そしてシリルのそばにぴったりと寄り添うと、ぐるぐる巻きのスカーフのなかに顔を隠したままつぶやいた。

『いろいろあるけど、私、幸せ』

リディアのその言葉を聞いて、シリルは彼女の頭を撫でる。そしてもう一度池の底を覗き込んで言った。

『今度さ。どこか湖でも行かないか。深い湖がいい。水を眺めてると、なんとなく気が休まる』

リディアは笑顔でシリルを見上げた。

『うん。小旅行しよう。ピクニックでもする?私、サンドイッチ作るよ』

『俺の苦手な玉ねぎのピクルスは入れてくれるなよ。代わりにマスタードいっぱいのやつを作ってくれ、ハムサンドとかな』

『了解』

シリルは穏やかな表情でリディアに微笑み返すと、再び視線を自分の足もとと池に落とし、彼女の隣でほんの一瞬ばかり物思いに耽った。リディアはそんなシリルの表情には気づかず、ただ彼の手を強く握り締めて立っていた。