tête-à-tête 114

『俺ちょっと外で煙草吸ってくるわ、』

ホワイト・ヘイヴン市内の繁華街シトルリア、酒場【ブラック・マスト】の隣にある喫茶店。シリルはマーカスがマーティンとそつなく会話できているのを見て、席を外す。

『マーティン、数分のあいだ、マーカスを任せたぞ。お前を信頼に値する男と見込んでのことだからな、頼むぜ』

マーカスは小海老のフライを3つ4つとフォークに突き刺しながら、マーティンの代わりに答えた。

『心配するなシリル。お前が戻ってくる頃までには色情魔の俺が必ずマーティンを落としてみせる』

『アホかお前は』

シリルはマーカスを軽くあしらって店の外へと出て行った。

 

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『それで、奥さんってのはどんな人?』

マーカスはレタスとチコリのサラダを機械的に頬張りながらマーティンに聞く。マーティンは蟹とオリーヴのバゲットサンドをひとくちかじると、数秒考えてから質問に答えた。

『思いつくままに言うと。笑顔がまぶしくて、とっても綺麗な人。僕と違って、自信に満ち溢れてる人。頭の回転が早くて、ユーモアのある女性。これまた僕と違って、行動派、かな』

『でもナンパしたのはマーティンなんだろ?』

『ナンパって言い方、それちょっと心外だけど』

『ナンパじゃんよ。しかも教会で声かけたんだろ?すげえ度胸だな』

『本を紹介しただけだよ。その後のつき合いに誘ってくれたのは、むしろレイチェルのほうなんだし』

『レイチェルっていうんだその人』

『うん。今まで言わなかったっけ?』

マーカスは器に入ったドレッシングをスプーンですくい、サラダの上にかけまくった。マーティンはシリルの真似をして笑って言った。

『ねえそれ、かけ過ぎじゃない?』

マーカスはマーティンの注意を気にも留めずにサラダを頬張って言った。

『随分優しい人なんだな、そのレイチェルって人は。俺だったらあんたのこと、羽交い締めにして技かけて、外におっぽり出すわ。本なんていらねえ、哲学なんてやってんじゃねえって』

『どんな技ですかそれって、』

マーティンは皿の上のパンくずをひとつだけつまむと、マーカスに向かって軽く放り投げた。

『君はホントに面白いね。シリルは幸せ者だ。僕も君に出会えて、光栄だよ』

するとマーカスはすかさず自分の皿を腕で隠し、芝居がかったふうに睨みつけて言った。

『調子のいいこと言っても、俺のはやらないからな。マーティン、あんたはそのサンドイッチひとつで満足しとけ』

マーティンは大らかに笑って、再びパンくずをマーカスに投げつけた。

 

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茶店の外。シリルが壁にもたれて煙草を吸っていると、真横の酒場【ブラック・マスト】からひとり青年が出てきて、シリルの名を呼んだ。

『おいおい、久しぶりだな。今までいったい、どうしてたよ?』

青年は親しげに近寄ってくる。シリルは青年の顔を見るなり、居心地が悪くなった。仕方なく右手を差し出し握手を交わすも、内心、即座に店に戻りたくなった。

『ジョルジュ。元気にしてたか』

赤毛で色の白いその青年は、首にアヴァリエのスカーフを巻いていた。青年は快活に、そしてやや興奮気味にシリルに言った。

『俺は元気、元気よ。それよりもお前、知ってるか?聖レジナルド教会の話』

『聖レジナルド?』

シリルは耳慣れぬ名前に一瞬首を傾げたが、以前自分が訪れた教会のことをハッと思い出した。ジョルジュはたたみかけるように言葉を続けた。

『俺たちさ、面白いことになってきてるのよ。あの教会、対立教派をぶっ潰すつもりでいてさ、実は裏では武装を始めたわけ。で、俺たちとしてはここで協力・貢献しない手はないよなってことで、アヴァリエを脱退するフリをして武装解除して、目下、教会に武器を【寄付】してあげてるのよ。俺たちは争いごとには一切ノータッチだけど、今後これ、面白おかしくなりそうじゃね?なあシリル、せっかくだからお前も参加しないか?遊びだよ遊び、ゲームで戦争ごっこ。お気楽にやってみようぜ?』