tête-à-tête 115

ホワイト・ヘイヴン市内の中央図書館分館。2月27日の土曜日、午前10時。マーティンは先日と同じように、3階の児童図書コーナーにいた。前回と違うのは、資料探しが目的ではないということだった。児童図書コーナーからは司書らのいる貸し出しカウンターが見渡せ、カウンター上の壁時計も見える。マーティンは壁時計の長針を時折ちらっと眺めては、なるべく平静を装おうとして、棚の本を1冊手に取って立ち読みするふりをしていた。

それから10分ほど経った。マーティンは本を静かに棚に戻すと、児童図書コーナーから少し離れて、フロア全体を見渡した。すると貸し出しカウンターから最も遠いところにある閲覧席で、見慣れた後ろ姿の男性が椅子に腰掛けているのが見えた。男性はゆっくりと席を立つと、読んでいた新聞を丁寧に折り畳み、書架に戻そうとしたが、自分のほうを見ているマーティンの姿に気づき、体の動きが止まった。

マーティンはそのままじっと男性を見つめた。そして自分から近づいていこうとしたそのとき、男性は手にしていた新聞を書架に戻し、おもむろにマーティンのほうへと歩み寄ってきた。それでマーティンもフロアの中央へと歩いていった。

マーティンの目の前に立つと、男性は壁時計の時刻を見、落ち着き払った様子で言った。

『午前10時15分。さすがは私の息子だな』

男性はその言葉とともに右手を差し出すも、マーティンは握手を拒んだ。男性は苦笑して、差し伸べた手を引っ込めた。

『あくまでもあなたがよろしければの話ですが、』

マーティンは冷え冷えとした口調で話を切り出した。

『今度、お時間の都合がよろしければ、僕の従兄弟の空き家にいらしてください。そこで話をしましょう』

『いとこ?それはジョンの息子……のことかね?それとも娘だったか。もうこの国に来ているわけか?』

するとマーティンは1枚の紙切れをコートのポケットから取り出して言った。

『従兄弟の空き家の住所です、』

男性は目の前に突き出されたその紙切れを受け取ると、そこに書かれている住所をまじまじと眺めた。マーティンは感情を抑えたまま、淡々と言葉を続けた。

『前回あなたが私に指定なさったように、待ち合わせ時刻は土曜日の午前10時18分にしましょう。毎週土曜日、僕はその住所にいるので。気が向いたらいらしてください。すべてあなた次第ですが』

そう言うとマーティンは素早く会釈をし、踵を返してフロアの階段を降りていった。