tête-à-tête 116

『珍しい客が来てるぜ、おい』

ホワイト・ヘイヴン市内の繁華街シトルリアにある、酒場【ブラック・マスト】。土曜日の夜9時。店内は20代、30代の若者たちでごった返している。そのなかでひとりだけ、ゆうに60代後半は超えているであろう男性が、飲み物を片手に壁際でぼんやりと佇んでいる。男性の姿に気づいた数人の青年たちは、好奇心から男性のいるほうを指差し、バーカウンターを離れて彼に近づいていった。

『ここは初めてですか?』

喧噪のなか、ひとりの青年が声を張り上げてたずねた。初老の男性は杯を上げると、微笑しながらうなずいた。すると金髪の別の青年が続けて質問をする。

『何か特別な用事でも?誰かを探してるとか?』

男性は首を横に振って答えた。

『いや。人はいいんだ。人ではなくて、ある物を入手できないかと思ってね』

『モノって?』

金髪の青年は興味本位で聞き返す。男性は飲み物の入っていたグラスを左手に持ち替えると、右手の指で拳銃を撃つ仕草をしてみせた。するとその場にいた青年全員が互いに顔を見合わせ、そのうちのひとり、いちばん背の高い青年がニヤニヤと笑いながら男性に【商談】を持ちかけた。

『それで、具体的にはどの銃をご所望で?』

男性はこれといった考えもなく答える。 

『至近距離で一発で済ませられるなら、特にこだわりは』

『小銃でいいってこと?』

男性は微笑んでうなずいた。青年は男性に合わせてうなずくと、指先を擦り合わせるジェスチャーをして聞いた。

『幾ら出せる?初回のお客さんなら安くはしとくけど、新品は中古品よりも最低50ダレルは跳ね上がるよ』

すると男性はジャケットの内ポケットから財布を取り出し、あるだけの高額紙幣を無造作に掴むと、青年の手を取り紙幣を握らせた。

青年は暗がりのなかでざっと金額を確認すると、信じがたいといった様子で笑い出した。

『ウソだろおじさん、ホントにいいのか?』

『私ほどの年齢の人間なら、これくらいは出せる。金づるとして利用されたくはないがね、』

男性は飲み物をひとくちすすると、ズボンの右ポケットもまさぐって、追加の紙幣を1枚、青年に渡した。

『これは手数料ということで、受け取ってくれ。そして、肝心の物を私はどこで受け取れるかな?今すぐは無理かい?』

男性がそうたずねると、商談役の青年は他の青年ら全員に目配せをし、最後に彼らに向かって一度だけ大きくうなずいた。そして男性の腕を取ると、共に店を出るよう促した。

『【在庫】ならこの店内にいくらでも用意されてる。これから一緒に店の裏へ行こうぜ、おじさん。そこで商品引き渡しだ。ご自由に、好きなものを選んでくれ』