tête-à-tête 119

ホワイト・ヘイヴン市内、リディアとシリルの家。3月の初旬。平日の午後7時。古書店での仕事を終えたマーティンがふたりを訪れ、台所で赤ワインをラッパ飲みしている。そばで見ていたシリルは眉をひそめて忠告する。

『お前、下戸なんだから。頭痛持ちなんだし、慣れないことはするな』

リディアもシリルの隣で心配げな顔をしている。

『ねえ、マーティンさん。私が言うのも何だけど。そういうのはちょっと、マーティンさんらしくないんじゃないかし……』

『みんなそう言うよね、僕らしくない、僕には似つかわしくないって、』

マーティンは噛みついた。

『だけど僕にだって、感情はある。元学者だけど、荒れたいときもある。こんなふうに飲むのだって、今まで生きてきて一度たりともなかった。僕のことを詳しく知らないんなら、リディアさん、君は黙っててくれない?』

『ごめんなさい』

リディアは一歩後ろに下がって謝罪した。シリルはリディアの手を握って彼女をかばい、仲裁に入った。

『わかった。勝手な決めつけでものを言ってしまい、悪かった。ただ、俺もリディアも悪意があってこんなこと言ってるんじゃないんだ。今みたいな荒み方がこれからも続くとしたら、いちばん傷つくのは結局、お前自身だからだよ』

『シリル。こんなこと言いたくないけど。君だって大昔、荒れてたっていうじゃないか。以前僕にも打ち明けてくれたよね?動物を殺した、人を傷つけ殺しもしたって。だのにどうして僕には、ほんの少しの荒れる自由すら与えられないっていうんだい?』

マーティンは台所のカウンターに置いてあったシリルの煙草入れとマッチ箱に手を伸ばすと、慣れない手つきで煙草に火を着け口もとに持っていく。そして案の定、最初のひと呼吸で派手に咳き込んだ。煙のなかで涙目になって苦しそうにしているマーティンの背中を、シリルは黙ってさすった。

『リディアごめん、こいつに水を』

リディアはすぐにグラスに水道水を注ぎ、マーティンに手渡した。マーティンは背中で息をしながら、リディアからグラスを受け取る。

『ごめんねリディアさん、シリルも、』

マーティンは目をこすり、苦しそうにシャツの襟元を緩めた。相変わらず【元学者らしい】、清潔な身なりだった。グラスに入った水をひとくち飲むと、マーティンは涙を流しながら静かに言った。

『僕はね。反抗期ってものを経験したことがないんだ。と言うか、反抗したところで、誰も相手にしてくれなかっただろうと思う。いっときの非行とか、不良少年とか、実は少しだけ憧れてた。今の今も憧れてる。親は僕のこと、見てなかった。気にかけてくれなかった。それで僕は哲学だの何だのに没頭して、何も問題ないフリをしてた。諦めてた』

『それでも親父さんとまた会う約束したんだろ?やり合うために。すげえよお前、やったじゃないか』

シリルは穏やかな声でマーティンを励ます。そして確認のため、念を押して聞いた。

『……予定どおり、あの空き家で会うつもりなんだよな?俺もリディアも、毎週末、顔を出す。黙って立ち会うよ。だからその日の為に、酒やら煙草やらってのは、控えておいてくれ。せっかくのチャンスじゃないか、そうだろ?そう思わないか?』