tête-à-tête 120

『眠れないから床で転がって遊んでてもいい?』

『服が汚れるからよしなさい。こっちでちゃんとベッドに入って寝るか、自分の部屋へ戻るかしなさい』

リディアとシリルの自宅。マーティンが帰っていったその日の夜。リディアはシリルの部屋に来て、じゅうたんの上で横座りしてくつろいでいる。

『ねえねえ、すごいの私。さっき、すごいところまで数えちゃった』

『数えたって、何を』

シリルはベッドの上に座り、羽毛布団を膝まで掛け、頬杖をついてたずねる。リディアは自信満々に答えてみせた。

『羊の数。26万9872匹まで数えて、でも結局諦めてこっちに来た』

『んなアホな。そこまで数えきる前に死んでるわ、普通。こっちで寝るなら、はい、きちんとお布団にお入りになってくださいね?』

『じゃそうする』

リディアはパジャマの皺を伸ばし、足の裏に汚れがついていないかをチェックして布団に飛び込んだ。シリルはリディアのパジャマの前ボタンを2つ3つ留め直して【説教】をする。

『お前もときどき、ハンナ並みに手がかかるのな。いいですか、パジャマもブラウスも、ボタンは上まできちんと留めましょうね。はい、今日はこれでおやすみ』

リディアは羽根枕を抱えながらシリルに言った。

『ね、私今日、やっぱりマーティンさんに良くないこと言っちゃったよね?』

『まだ気にしてるのか』

『うん。だって私自身、昔あなたに言ったじゃない?私の何がわかるのよ、何も知らないくせに!って』

シリルは当時のことを思い出して、懐かしそうにつぶやいた。

『ああ。そういえばそんなこともあったか。俺の腕に噛みついてきてくれて、ありがとう。狂犬病にかかるかと思ってマジで戦慄を覚えたわ』

『もう。犬じゃなくて小鹿とでもおっしゃってくださらない?』

『鹿もあの出っ歯で噛みつかれたら生き地獄だろうな、たぶん。まあさ、あいつなら大丈夫だよ。別になにがしかの根拠があるってわけでもないけど』

シリルはベッド脇の灯りを消そうとする。するとリディアはシリルの目を真っ直ぐに見つめて謝罪した。

『ごめんなさい』

『何、突然』

シリルは灯りに伸ばしかけた手を止めてたずねる。リディアはときどきこうやって、予期せぬタイミングで話題を変えることがある。マーカスやハンナに変わるときの目まぐるしさほどではないけれど、不意を突かれることに変わりはない。リディアはちょっとばかり遠慮がちに言った。

『私、自分でも気づかないところで、あなたにもイヤな、余計なことを言ってきたのかな。あなたのご両親のこと何も知らないのに。だから、ごめんね』

シリルは安心して笑った。そしてリディアの肩に腕を回して言った。

『気にするな。さて、そんなお前に絵本を読んでやりたいところだけど、古本は全部さばいてしまったからな。そうだな、例えばこういう話はどうだ?……昔、とある町に、レストランを経営している熊さんがいました。ある日、熊さんがキッチンで料理を作っていると、鍋に入っていたスープから緑色の豆が飛び出してきて、熊さんの鼻の穴にスポッとはまってしまい……』

リディアはシリルの腕を叩いて笑った。

『もう!想像してますます眠れなくなるじゃない。羊の数、50万匹まで到達したら、あなたいったいどうしてくれるの?』