tête-à-tête 124

ホワイト・ヘイヴン市内最大の市場、キャストレー東中央市場。3月中旬、平日の昼下がり。ひな壇の上に骨董品が並ぶ露店の前で、リディアはシリルに笑いかけて言った。

『ねえ?このお猿さん、私の部屋に置いてみたらどうかしら』

シリルは両手にシンバルを持つブリキの猿人形を見て、顔をしかめて答える。

『これはちょっと、どうかと思うぜ……?暗闇にこんなヤツがいて、こんな赤い目で俺とお前が寝てるところを監視されたらと思うと、吐き気がしてくるわ』

リディアはケラケラ笑った。

『そうね、魔除けにはいいかもね。夜這い対策』

『俺とお前のいったいどっちが夜這いなのかって話だけどな。朝になればなったで、フライパン叩いて踊り回るヤツもいるし。それよりも、』

シリルは小さく咳払いをして、真顔でリディアにたずねた。

『お前はどう思う。その、指輪、欲しいか?』

『指輪?』

リディアは驚いて思わず大きな声を出した。平日で閑散とした市場の通りにリディアのすっとんきょうな声が響き、周りにいた数人の買い物客が不思議そうな顔で振り返る。シリルはもう一度咳払いをして言った。

『いやその。式も挙げてないし、順番をどうしたらいいのかもわからんけど、形から入るのも悪くないかなと思って』

『そんなこと考えてくれてたの。やだ私、どうしよう。夢がかなっ……』

そのときだった。ふたりの背後から話しかける男性の声があった。

『欲しいものなら何でも買ってあげよう、』

声のするほうを振り返るなり、リディアの顔からさっと血の気が引いた。シリルは男性の顔を見て、とっさにリディアの前に出て楯となる。男性はリディアに右手を差し伸べて言った。

『私の愛する娘。私のもとに帰ってきなさい。そうすれば、どんなものだって、手に入る。金も、贅沢な服も、暖かいベッドも、私との情熱的な時間も、すべて、すべてが元通りになる。何もかもが完璧になる。お前を最高に幸せにするのはその男じゃない、この私だよ』