tête-à-tête 129

『それはそうと、』

シリルは台所のシンクに片付けたワインボトルを振り返ってちら見し、ふざけ顔で話を続けた。

『3人揃ってとりあえずの祝勝会だってのに、マーティンお前、ひとりで飲みやがって』

『僕は何にも勝ってないよ、』

マーティンは膝を抱え、恥ずかしそうに言った。

『別にあの父親にだって、勝ったとは言えないもの。僕はきっと、力ない、頼りない子どもなんだろうから』

『そんなことはないだろうに。つくづく自己卑下のうまい男だなお前も、』

シリルは大きく口を開けて笑った。けれども冗談はそこでやめにして、戸惑い気味に本音を口にした。

『それに俺とリディアだって、本当の意味で勝ったとか終わったとは、言えないかもしれない。明日のことなんて、正直、わからん』

『決着がついていないってこと……ええっとその、リディアさんのご家族との……?』

マーティンは言葉選びに苦心した。リディアは微笑んでマーティンに答えた。

『気を遣わなくていいのよマーティンさん。……あの人はね、完全には消えずにまた戻ってくるかもしれないけど。そういう国でしょ、ここは。でもとりあえず、私たちみんな生き延びた、セーフだったってことにしようよ』

最後の言葉は少し声が震えていた。リディアはすぐに涙を拭い、シリルとマーティンの両方に笑顔でたずねた。

『ふたりとも、お腹空いてない?これから外に食事しに行く?それともマーティンさん、おつまみにできる食材、ある?そしたら3人で何か作ろうか?』

その提案を聞くなり、マーティンは頭を抱えてまた泣き出しそうな顔をした。

『おいおいどうしたよ』

シリルが声をかけると、マーティンは絶望的な泣き笑い顔で答えてみせた。

『結婚する前のレイチェルも、今のリディアさんみたいな感じだった……店で食材買い込んで、まだ学生だった僕のアパートに来て、これからお昼作るね、一緒に食べましょうって、よく言ってくれた。もう、女の人ってのは!』

シリルは顔を上げて笑った。そして空になったワインボトルを振ってマーティンに言った。

『お前は当分のあいだ、コーヒーで反省だな。俺たちの分まで開けた罰だ。さあ、何か缶詰とかあるか?せっかくの機会だ、俺とリディアで食い散らかしてやるから、喜べ』