tête-à-tête 131

1901年3月下旬。ホワイト・ヘイヴン市の北にある、シュタステン湖国立公園。シリルとリディアはその国立公園から鉄道で10分ほど市内寄りの町にその日の宿を決め、公園の入口で入場券を買い、湖までの小道をふたりで歩いていく。リディアはシリルの右腕に自分の左腕を絡ませると、少し申し訳なさそうに言った。

『マーティンさんも誘えば良かったかな。あの人、ひとりにしておいて大丈夫かな』

『あいつを邪魔者にはしたくないけど、3人で、ってのは俺にはきついわ、』

シリルはリディアの体を引き寄せて苦笑する。

『素直に嫉妬する。お前があいつに親切にしてると』

リディアは思わず大笑いした。そして、まるでタオルでも絞るかのように、シリルの腕を両腕でぎゅうっと抱き締めた。

『それなら私、もっとあなたに親切にしないとね。今日は手ぶらで来ちゃったけど、明日以降のピクニックにはあなたの好物のハムサンドをお作り申し上げます』

リディアはそう冗談めかした直後、ピタリと歩を止め、真っ直ぐにシリルの目を見つめる。そして周囲に誰もいないことを確認すると、より一層深くシリルの目を見、彼の首に腕を回して口づけをした。ふたりは道の途中で立ち尽くして、数たび口づけを交わした。

『……どこに捨てたらいいと思う?』

シリルはリディアを抱き締めながらたずねた。

『俺のと、お前のと、計2丁。持っていたところで、また揉め事に巻き込まれるだけの代物なんだよな』

シリルはリディアから一度体を引き離すと、ミリタリーコートの内側に着けたホルスターから、自分の小銃を抜き取る。リディアも長いコートの前ボタンを外すと、細い紐で腰に巻き着けたヌメ革の袋から、自分の銃を取り出した。

『ブラック・マストにたむろしてる連中から、たまたま聞いたんだ。アヴァリエのメンバー、武装解除のフリをして教会の武装勢力に銃を横流しして、教派対立に間接的に加担してるって』

『私たちもう飽きたよね、そういうの』

リディアはもはや弾の込められていない銃を右手で構えると、腕をぐっと上へ伸ばし、空に向けて撃つ仕草をした。そして再び腕を下ろすと、首を横に振り、黙ってシリルに微笑みかけた。

 

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『どうだろう。どのあたりがいちばん深いのかな』

シュタステン湖に到着すると、シリルは湖の全景を見渡してリディアにたずねた。シュタステン湖はホワイト・ヘイヴン国にある湖のなかでも、これと言ってとりたてて大きい部類には入らなかったが、水深に限れば1、2を争う有名な場所だった。リディアも湖を取り囲む景色全体を見回して言った。

『とりあえず、半周ほどしてから決めましょう。最終決定は、あなたに任せる』

リディアのそのひと言を合図に、ふたりは寄り添いながら湖の周りをゆっくりと歩き出した。水辺とあって、空気が皮膚に刺さるほど冷たかった。湖のところどころには、中途半端に溶けたり固まったりを繰り返した板状の氷が残っていた。あたりにはふたり以外に人っ子ひとりおらず、周辺の森林から鳥の鳴き声が響いてくるだけだった。

7、8分歩き続けたところでシリルは歩みを止め、湖のなかを覗き込んだ。

『ここらへんにするか』

『OK』

ふたりは互いに見つめ合うと、再びそれぞれの銃を取り出し、うなずいた。そしてリディアは先ほどと同じようにしっかりとした眼差しでシリルを見つめると、深呼吸をして笑った。

『ちょっと、とーっても勇気のいることを言っちゃおうか』

『何』

リディアはもう一度、肩で大きく深呼吸をしてシリルに微笑んだ。

『ちょっと、女らしくないこと。今日これが済んだら、今晩は私、あなたを抱きたい。あなたが昔、私に対してそう思って言ってくれたように、私はあなたのこと、あなたのぜーんぶが好きで大切でかけがえがなくて、あなたを愛してる。だからあなたのこと、もう、丸飲みにしてしまいたい』

シリルは静かに微笑んで言った。

『ありがとう。蛇女の気持ちは、よーくわかった。俺の背骨まで、思う存分気持ち良く飲み下して、その腹に収めてくれ。じゃあ、いちにの合図でいくぞ?』

『了解』

『いち、にの、ハムサンドイッチ!』

ふたりは一気に空高く銃を放り投げた。銃は日の光でキラキラその身を輝かせながら、上空でくるくると回転を繰り返し、そのわずか数秒後に湖面にぽちゃりと音を立てて落下した。そして、落下直後にプクプクと現れた小さな気泡もやがて姿を消し、岸に規則的に打ち寄せる波の音だけが静かにその場に残った。