tête-à-tête 132

1904年、3月14日。ホワイト・ヘイヴン市内のエスター通りにある、ストラストヴィーチェ書店。平日の午後2時。マーティンはシリルから届いた手紙を読みながら、いつもどおり会計カウンター横のデスクで店番をしている。

 

マーティンへ、

 

暇だから書いてみた。

 

この前、ある噂を耳にしたんだ。

アヴァリエの連中、教会の紛争に本格的に加わり出しやがったらしいぜ。

どっち派なのか、真相は知らない。俺の勘では、ドルパ・ドネルン派だろうと。基本的にアヴァリエに入るような奴らは、【メジャー路線】を嫌うから。デカい組織を地下で潰しにかかるっていうのが大好きな、ドブネズミ野郎ばかりだし。

 

俺とリディアはもう関与してないから、しれっとした顔でスルーしてる。ブラック・マストへも行かなくなって久しい。そりゃそうだよな、50手前の男と女があんなとこで飲むわけにはいかんだろ。

 

それで今年に入ってからは、まあ、ラウンジというかサロンというか、市内の宿のケツにくっつけられた店で飲むようになった。俺ら金持ちじゃないんで、出入りできる場所なんて、たかが知れてるけどさ。とりあえずは落ち着いて飲める場所。だからまた今度、お前とどこかの店で落ち合えたらと思ってる。

 

絵本、全く持って行けず、申し訳ない。ここんところリディアの奴、不思議なものばかり読んでるんだ。心理学とか、国文学史とか、いろいろ。たまにがきんちょどもが出てきて、絵本の読み聞かせをせがまれはするけど。いったい、何を企んでいるのかなとは思う(苦笑)。

 

今週末にでもまた、書店に会いに行くわ。リディアと3人で、夕飯を食おう。

 

それじゃまた、

 

シリル・J・レイノルズ

 

 

読み終えた手紙を封筒に戻していると、ドアの呼び鈴とともにストラストヴィーチェ・ジュニアが父親のシニアとともに現れた。マーティンは笑顔でふたりを迎える。

『お昼ご飯、おいしかった?』

『ああ、お前のおかげで久し振りに親父にうまいもん食わせてやった。ありがとな』

『鷹の肉というのはウェルダンでは固くて噛み切れんのうー』

『今日食ったのは鷹の肉じゃないだろ、親父。ウサギだよウ・サ・ギ』

ストラストヴィーチェ・ジュニアは呆れ顔で溜め息をつく。そしてふとあることを思い出してマーティンに言った。

『ああ、ところでそうそう、お前にも報告しとかないといかんな』

『どうしたの?報告って、何を?』

マーティンはデスクの上の包み紙に手を伸ばすと、中からゴソゴソといちご飴をつまみ出し、口に放り込む。同じようにしてジュニア親父が包み紙に触れようとすると、すかさずマーティンはジュニアの手の甲をひっぱたいた。

『いいじゃないかよ1個くらい』

『その前に、報告っていうのは?』

マーティンは頬杖をつき、にやにやしながら待った。するとストラストヴィーチェ・ジュニアは背筋を伸ばし、【おっほん】と咳払いをして答えた。

『大学院に進むことに決めた。まあ、お前からすれば大したことではないだろうが』

『すごいじゃない!』

マーティンは満面の笑みで包み紙を破り、いちご飴をデスクの上いっぱいに広げた。

『そこまで大量の飴は食いたくないけどよ』

ジュニアは閉口した。マーティンは自分のネクタイを整え、ふざけたそぶりで言ってみせた。

『それでは今後はわたくしが指導教官の役を買って出ますので。論文作成、口頭試験ともに、スパルタ式にダメ出しをさせてもらいますよ。いいですかストラストヴィーチェくん、覚悟しておいてくださいね?』