tête-à-tête 133

1904年3月14日。ホワイト・ヘイヴン、入国審査場。午後2時。ひとりの女性が入国審査手続きを終える。60代前半とおぼしき女性審査官は手続きとは別に、彼女に私的な質問をした。

『そのネックレス、とっても素敵ね。翡翠……でいいのかしら?』

質問を投げかけられた女性は笑顔で答える。

『そう、翡翠です。綺麗な色をしてますよね』

審査官はべっ甲のフレームの眼鏡をかけ、女性の胸元で輝く翡翠を改めて見た。

『あれ……、それ、指輪?』

女性の笑顔は更に大きくなった。

『そうなんです。さすがは審査官、目のつけどころが違いますね』

『指にははめないの?』

すると女性は愛おしげに、右手の指先で翡翠を撫でながら言った。

『これはもともと、ある方のもので。その人に渡すために、持ってきたんです。サイズも、私が使うにはほんの少し大き過ぎるしね。……あっと、ここを出る前に、聞いておかなきゃいけないことがあるんだった』

『何かしら?』

女性はクリーム色のコートのポケットからメモを1枚取り出して、審査官にたずねた。

『行きたいところがあるんです。市内、のはずなのだけど。エスター通りっていう通り』

『ああ、あそこね、』

女性審査官は大きくうなずきペンを取ると、メモを自分に渡してくれるよう促した。

『審査場を出てすぐのところに、市内行きの乗り合い馬車が何台も停まっているの。そのうちのどれに乗り込んでも大丈夫。それか、向かいにある鉄道駅ね。コイェンボー線っていう路線。Kollęnborrg。プラットフォームは6番。ここに書いておくね』

審査官はサラサラッとペンを走らせ、笑顔で女性に紙切れを返した。

『出口はあそこ、新しくできたS8ゲート。このまま真っ直ぐ行けば迷わず外に出られる。ご心配なく』

『ありがとう』

女性は床に置いた鞄を手にし、ゲートに向かって歩き出す。すると審査官は女性の後ろ姿に向かって笑顔で声をかけた。

『最後の質問。これからお会いになるのは、ご家族?それとも恋人かしら?』

その言葉に女性は振り返ると満面の笑顔で手を振り、【Enigloyęlte!(永久に愛する人!)】と叫んでその場を立ち去っていった。