2021.03.19 散文詩

この曲をひとりで聴いたらあの人はどんな反応を示すだろう?僕はYouTubeでとあるオルタナ・ロックバンドの楽曲を聴きながら思った。昨日の僕も今朝の僕も、てんで頭が働かず、その人への返信メールを仕上げることが叶わない。と言うよりも、素直に白状するならば、伝えるべき言葉・文章がひとつも準備されていない……僕の眼前に、まな板の上に、それらは整列すらしてくれていない。そのくせ、貼ろうと思うリンクの候補だけは次々見つかる。きっと眩しい赤の色や、鋭い硝子の破片や、体の周りを一周する雨粒や、角のこぼれた煉瓦だのに、あの人の心がどうえぐられるのか、僕はそこを実験したいのだろう。

それで僕はちょうどそのとき聴いていた曲のリンクを、メールの想像上の文末に置いてみた。出だしとお尻とのあいだに空の水槽のような大きなスペースを取って、『親愛なるDさま…………………………https://云々』とだけ入力をしてみた。そして椅子を後ろに引き、ノートパソコンの本体から少し離れてその【手紙】の全体を見た。

僕はつい笑ってしまった。そしてリンクの部分だけ削除した。僕が与えようと思うものを、あの人は何ひとつ欲しがってもいなければ貰ったところで喜びもしない、その確率のほうが高い気がした。そして僕自身、……あの人から何をもらいたいのか、ひょっとしたら何も受け取りたくないのか、あるいは期待するものはあってもあの人からそれを受け取ることは夢物語に決まっているさと笑い飛ばしたいのか、……よくわからなかった。

僕は椅子の上で片膝をつき、ノートパソコンの横に置いておいたシリアルバーの箱を開けた。銀色のパッケージを破るなり、無駄に甘いブルーベリーの香りが僕の顔面をむわっと覆った。ホロホロと床に落ちる欠片に悪態をつきながら、僕はにやけ顔でシリアルバーを頬張り、しばしのあいだ窓の外を眺めて呆けることに決めた。