もうそろそろの時分です-3

「へー。電車ん中で会ったんだ、その修道司祭さんって人と」

「うん。人が静かにひとりで本読んでるときに声かけてきやがった。野の百合、空の鳥ですねって」

「なんでタイトル知ってたのその人。日本語できないんでしょ」

「その日は英訳版読んでたんよ。普段からブックカバーなんてつけないから、まんまと表紙見られた」

「そっか。で?」

「うっざいオッサンだなあーと思って無視した。しかもPMSでまじイライラしてたから席立ってドア付近に移動した」

「あからさまねー芽衣も」

「どうせ次の駅で降りる予定だったからね。新宿3丁目。そしたら降りる間際にまたこっちに来た」

「駅係員に突き出したくなるねそういうオッサン」

「そうそう。普通のオッサンの場合はね」

「でも普通じゃなかったと」

「ねー。不思議なご縁ってあるもんだよね。失礼しましたついカークガードが好きなのでって謝罪してきてさ、自己紹介してきた」

「発音訂正してやればよかったのに、キーゲゴォですけどって」

「いやー、教会の司祭って聞いたらなんか突然萎縮した」

「肩書きに弱いもんねあなた」

「別に代表取締役とか言われる程度なら気にも留めないけどさ。宗教家じゃん。で、私はどこそこの教会で司祭やってます、よろしかったらいつかお祈りに来てくださいって言われて、それでその日は別れた。と言うか、あたい逃げた」

「でもその後実際、その教会へ行ってみたんでしょ?」

「うん。それがきっかけで洗礼授かった」

「スピード洗礼だったよね。通い始めて半年後だっけ?まさかその司祭さんに袖の下でも」

「賄賂贈るにしても何贈っていいかわかんない相手だよ。笹蒲鉾でも渡すか?」

「外国人に笹蒲鉾…」

「正確にはスコットランド人ね」

「名前は?本名ってことだけど」

「大倉義太夫

「んなわけない」

「失礼。ショーン・マクゴナグル」

「マクゴノゴロ?」

「マクゴナゴロゴッチ」

「とりあえずショーンさんね」

「Yeah」

「それでそれ以来、その神父さんの聖書研究会にも出てるわけだ。好きなのその人のこと?」

「うん。普通に好き」

「早速、クリスチャンとして道外れたね」

「柱の陰からストーカーしてますよ、おかげさまで。あ、ゴメン、そろそろ行かないと」

「体調、大丈夫?副作用は?」

「このニット帽見ればわかるっしょ」

「そだね。ごめん。駅まで一緒に行くよ。何なら夕方までつき合おうか?」