「相変わらずの狭さなんで。ごめん」
「ああ、もう全然。カバンはここでいい?」
「うん。Tusind tak」
「Det var så lidt. もう7時かあ。芽衣、お腹空いてる?」
「少しね」
「良かった。じゃ、なんか作る。冷蔵庫開けていい?」
「いいけど中からペニーワイズが出てくるんでよろしく」
「あっれー、ペニーワイズってあなたと同居してたっけ」
「気がついたら冷蔵室を不法占拠しておった」
「製氷スペースに押し込めたらそろそろお陀仏するんじゃない?あ、納豆、食べられそう?」
「うん。運良く今はいけそう」
「じゃあ地味に納豆ご飯でいい?」
「類が作ってくれるんなら何でも。ごめん、ちょっと横になる」
「まだ吐き気する?」
「いや。疲れただけ」
「眠たかったら寝てていいのよ」
「眠くはない。にしてもここんとこヘンな夢ばかり見るんだよな」
「治療でお疲れなんでしょ。無理もない」
「いやあ、それにしても気味が悪いんよ。同じ夢を繰り返し見る。何人だか知らないけど、特定の人種が狙われて虐殺される。みんな必死に隠れるんだけど、最後には見つかって一人残らず撃ち殺される。でも奇妙なことに、とある女の子だけは逃げ延びるみたいで」
「21世紀のホロコーストかしらね、不気味。やっぱり疲れてるのよ芽衣。ましてやこの4年間は感染症の時代だったんだもの……オッケー、熱はないみたいね」
「手、随分とまああったかいね」
「せっかくのハンドパワーは使わないとね。じゃ私、お味噌汁と納豆ご飯作るから、あなたはそこでゴロゴロゆっくりしてて」
「なんか奥さんみたいだね類は」
「あらそう?ハハハ」
「類みたいな気配りの利く女性が、なんで40過ぎても独身なのかねえ。世の男はなぜゆえこうまで見る目がないのか。ん?類?どしたあ?」
「あ、ううん、何でもない」
「類も疲れてるんじゃないの?何だかんだ言って数時間つき合わせちゃった。ごめん」
「私はなーんともない。気にしない気にしない。納豆はこの添付たれと辛子でOK?」
「リー・ペリンソースがベスト」
「冗談でしょそれ。クッソまずそう」
「類がクソなんて言葉遣うと鉄棒で懸垂でもしたくなるわ」
「それくらい元気なら、この先も大丈夫そうだね、治療。応援してる」
「サンキュー。やっぱり起きる。なんか手伝うこと、ない?」
「いい、いい。ゆっくりしてて。キーゲゴォさんのジグソーパズル、まだ完成してないんでしょ?続きでもやっててよ」
「んならわかった。パズルやってる。まだニワトリ頭の部分だけ埋めてないんよ。おととい、やってる途中でトイレに駆け込んじゃったもんだから。頭だけであと20ピースは残ってるって、この人いったいどーゆーことかね?」