(2010年11月26日、新木場studio coast。)
「半券落としましたよ」
「え?私の?いやいいですよ、ドリンクチケットじゃないし」
「でもこういうの記念に持って帰りませんか?あ、すみません。初対面なのに」
「いやいやいや、全っ然。いやその自分はね、ギグには結構あちこちよく出かけるんですよ、それで半券持ち帰りとかのありがたみが失せてきちゃって。そういうの、ありません?」
「私初めてなんですよ、こういう場所で観るの」
「ん?ごめんなさい聞こえない」
「わ・た・し、こーゆう場所、初めて」
「あ、そうなん?それじゃあ半券も宝物」
「そういうこと」
「今日はおひとりで?」
「はい?」
「今晩はあ、おーひーとーりで?」
「ああ!はい。職場から急いで来ました。カール・バラーのファンで」
「え?オープニング・アクトのために今日のチケット取ったの?!」
「うん。おかしいかな」
「いやいやいや。すごい熱心な。お名前伺っても?」
「類です」
「ルイさん?」
「そうです、類。お名前は?」
「私は芽衣っていいます」
「メイさんですね」
「うん、そう」
「初めまして。今日はお友達とかは?」
「いない。一人で来た」
「私とおんなじ。ドリンク、買いますか?」
「もう飲んじゃった」
「私いらないから、ドリンクチケット差し上げましょうか?」
「ホントに?じゃ、もらっとく。ありがとう。グッズは?……あ、ファンじゃないか」
「いえいえ、せっかくなので帰りに見るつもりですよ!」
「じゃあ今日は最後まで一緒に観ません?」
「ほんと?いいですか?ありがとうございます」
「場所はここでOK?前行く?」
「私はここでいいですけど、メイさんが前へ行くなら私も」
「いや、私もここでいい。ずーっと昔、横浜のライブハウスだったか、モッシュピットに押し込まれてさ、もうボッコボコにされて以来、前には」
「そんな荒っぽいライブへも行かれるんですか?」
「たまたまだよ。本来は美的感覚ちょー最高の繊細な人なんだから」
「そうは見えない」
「え?ごめん聞こえなかった」
「何でもないです!メイさん、まだあと30分あるから、飲み物買ってきません?」