もうそろそろの時分です-12

「はいはーい、類です」

「あ、類?今、大丈夫?」

「全然平気。家にいる」

「定男さんはどうしてる」

「うちの定男さんならおとなしく寝てるよ。どうしたの?」

「あのさ、以前ロンドンで食べたベジタリアン・フル・ブレックファストがおいしかったのよ」

「ふんふん」

ユーストン駅構内に入ってる小さなイタリアン・レストランだったんだけど」

「うん。それで?」

「うん。ユーストン駅ということでさ」

ユーストンがどうかしたの」

グラスゴー線が走ってるやん、あそこから」

「はあ、まあそうねえ」

「もちろん、カレドニアン・スリーパーも捨てがたいんだけど」

「それであなたの仰りたいことは」

「行こうと思うんよ。グラスゴー

「あなたまだ治療中じゃない」

「最初の1サイクル終えてから次のサイクルまでは空きがあるからさ」

「旅行保険掛けられないよ。そもそも何しに行くの。もしかして」

「恐らくはその『もしかして』だと思います」

「奥さんいるじゃない、あの人。奥さんに会うための一時帰国じゃないの。そこへ会いに行って、何になるの?」

「面白そうだからさ。ドッキリでも仕掛けようかと」

「ドッキリって、別に向こうで会える保証なんてないわけでしょう?」

「教会のシスターから入手したんよ。掌院に会える現地の教会の住所」

「あなたよくもまあ虎視眈々と。ならいいんじゃない、行ってみても。気晴らしにもなるだろうし」

「それであたいとしては定男さんの意見を聞きたいなと思って、こうしてお電話差し上げたのだけど」

「なぜゆえ定男さん」

「良かったら類にもご同行願えないかなと思いまして」

「それなら定男さんに聞く必要ない。私に聞いて」

「それでは、おっほん。類さん、よろしければご同行願えますかね」

「もちろん行きますよ、マリヤさん。あっちでひとりでいるときに体調崩されたりしたら、困るもの」

「ありがとう。でね、やっぱりカレドニアン・スリーパーも捨てがたいんだよねカレドニアン・スリーパーも」

「あなたさっきっから連呼してるよねカレドニアンスリーパーカレドニアンスリーパーって」

「予約できたらね、2人分、予約できたらの話なんだけど」

「私に『予約手続きしろ』ってこと」

「いやあ、クレカ解約しちまったもんだから。最初、もう死ぬんじゃないかと気が動転して、つい」

「わかりました。フライトとホテルも合わせて試してみる、ご希望の日程を教えてくださったなら」

「メール、まだ見てない?」

「あなたもやること随分早いわね、芽衣さん。ちょっと待って……ああはいこれね、7月の第1週でいいの?」

「うん。類と一緒なら基本どの航空会社でもホテルでもいいんで、よろぴこ喉ぴこ」

「つまんないから、それ。じゃあ、私、決めちゃうよ?」

「あ、やっぱりエミレーツとかはフライト時間長いんで欧州系が」

「わかってます。ホントはBAでお飛びになりたいんでしょ、奥様」

「Miss Kurokawaです」

「それもわかってます。じゃ、これからすぐに予約手続き進めるから。芽衣は後悔しないように体調管理だけは今からしっかりやってね」 

「おお、I love you!」

「軽く言わないの。それじゃ、予約成功したら電話する。待ってて」

「わかった。定男さんに改めてよろしく伝えといて」