もうそろそろの時分です-32

(年が明けて2月初旬。芽衣と類の新居にて。)

 

「教会へも病院へもそれぞれ電車で20分、いいところに見つけたよね」

「いやあ、あたいにはありがたいけど、あたいの都合最優先になっちゃって、類には申し訳ないってゆーか……」

「平気よ。だって私、仕事だって在宅だし、お出かけキライだし」

「うーん。ならいいんだけど……、あー、雨降ってきたみたい」

「今日は朝からどんよりだねえ。ああそうそう、隠し事をやめるとするならね、」

「?」

「弟が事故った晩はね。どしゃ降りだったの」

「それで、スリップとかしてトラックに?」

「そういう感じだったんでしょうね。でも、一番の原因はそこじゃなくて」

「他に何かあったの?」

「その日ね、父親と大ゲンカしたのあの子。それで家飛び出して、大雨のなかバイクでいなくなっちゃって。母か私かどっちかが引き止めれば良かったんだけど、2階の部屋からもの凄い勢いで階段駆け降りて、そのまんま出てっちゃって。私、今でも責任感じてる」

「それは類のせいじゃないでしょう。お母さんのせいでもない」

「うん。ありがと。そう考えるようにはしてるんだけどね。なかなか。あと私」

「まだあるの」

「はは。うん。私、ずっと在宅で働いてるでしょう?」

「うん。そういや知り合った当初からそうだね」

「そう。なんでかっていうとね、筋腫持ちなの。子宮筋腫。30代の初めに一度手術してる」

「なんで隠すかなあ、そういう大事なこと……」

「だって、死ぬようなことじゃないもの。だけどホラ、気持ちのうえで、お出かけしたくない人の顔も見たくなーい!ってときが増えてね。でも、頑張って出かけた甲斐あって、14年前にあなたに会えた」

「そうだったのか……で、今はどうなの、体調」

「数年前に再発してる。私のお腹のなか、今お団子が3つほど。でも、大丈夫」

「今後はあたい、病院へはひとりで行くよ。類は家でゆっくりしてて」

「大丈夫だってば。人間、暇過ぎるとロクなこと考えないもん。言ったっけ私」

「何を?」

「私、小猿の面倒見るのがただただ楽しいの」

「猿なんて、どこに」

「いるじゃない。ハゲの小猿が」

ハダカデバネズミから今度は猿かい」

「猿にご飯あげて。洗濯物たたんで。お布団干して取り込んで。お風呂沸かして。そういう日常のささやかなことで私は満足なの。あと、ひとつお願いがあってね」

「お願い?何でしょう」

「レーズンをね。鼻に入れて写真撮影でもしてくれない?」

「は?」

「ぶどう好きでしょう。プルーンでもいいんだけど。私、来月誕生日だから、あなたのアホ丸出しな写真が欲しい。そしたら、お財布にでも入れて死ぬまで肌身離さず持ち歩く」