もうそろそろの時分です-34

(2月。教会敷地内の池の前。)

 

「ほーれほれほれ皆どもよ、今日も盛大に食らいつきたまえ」

「……マリヤさん!」

「?ああ、ワシリイ掌院。どうしたんですか、走ってきて」

「はあ……。少し走るとデブは疲れるね」

「デブではないです。どうなさったんですか?」

「マリヤさん、こんな寒い日に外で働いてはダメです。マリヤさんはまだ病気なのですから」

「なんだそんなことか。大丈夫ですよ、せいぜい、風邪をひくくらいです」

「ダメです。私これ持ってきた、昔母親が使っていたウールのショールね。どうぞ、これをこうやって掛けてください。肩の周り」

「ありがとうございます……」

「私、ホントに心配したね、先日マリヤさんが倒れたとき。心配した。とっても怖かった」

「申し訳ございませんでした」

「謝らないでください。マリヤさ……、Mayは、家族いますか?」

「家族ですか」

「Yes. ご両親とか、any relatives?」

「いえ。いません」

「May、あなたが病気のときは、誰がそばにいますか。つまり、家族がいないのだとしたら」

「ああ。えっと。今は私、類と暮らしていて、類に助けてもらってます」

「うん。私その話、シスターから少し聞いたよ」

「ええ。だから、心配ないです。本当に」

「May。大事なこと聞きます。Mayは本当に、信仰のために、結婚も恋もしないのですか。家族はいらないのですか」

「ふふ。ええ、はい」

「本当に?」

「はい。私のことは気にしないでください。それよりも掌院、掌院はこの教会の主教になられるのですか?」

「うん。私、そういう仕事、いただいたね」

「良かった!ホントだったんだ。おめでとうございます」

「だからね、私、これからずーっと日本。この教会内の宿舎でずっと暮らします。だからMay、私、ずっとあなたを守ることができるね」

「掌院……」

「May。よく聞いてください。私はあなたのことを大切に思っています。私はあなたのことが好きなのです。けれどもMay、あなたは私のことは好きではない」

「いえ。好きです。尊敬しています」

「尊敬?ただ尊敬ですか。私のことを男とは見ていないのですか、それは恋愛ではないのですか」

「……ああっと……、あの、これ、言っていいのかな……」

「What is it, May?」

「はい。あの私、いや、私の母親はですね、父親から暴力を受けていました」

「What?」

「私がまだ4、5歳の頃だったかな。DVです。Domestic violenceです」

「それでMay、あなたのお父さんはあなたにも」

「いえ。それはなかったです。ただ、私の目の前で母を殴ることはよくありました」

「For God sake……」

「だから私、恋愛とか結婚という意味では、人を好きになることができません。それがどういうことなのか、わからないんです」

「Sorry. I'm so sorry……」

「謝らないでください。掌院が気にすることでは……」

「ちょっと、聖堂の中でお話をしましょう。ここは寒いです。あなたの体に良くない。シスターがもう聖堂を開けてくれていますから、仕事をするなら今日はもう中でしましょう。さあ、行きましょう」