もうそろそろの時分です-37

(3月中旬。芽衣と類の家にて。)

 

「ふあおぁぁッ。ふぃっ。ふぇっ」

芽衣、あなた何してるの」

「見、れば、わか、るでしょ、ふぇっ」

「わかるにはわかってますけど」

「体力、増強、の、ため……の、大運動だ!」

「てゆーかさっきから見てるけどまだ4回しかしてないじゃない、腹筋」

「私はね類くん、これから、こ、れ、か、ら強く気高くなるのだよ、気高くね!」

「毛深くなる、のほうがいいと思うけど。まだハゲ一部残ってるし。それよりも、ねえ、夕飯作るの手伝って」

「私はね類くん、家庭科の成績は絶対評価で2だったんだよ類くん」

「だから私が教えてあげるの。ほらほら、こっち来て」

「はい。わかりました。よっこらせと」

「いい?包丁はこう持つの。で、左手はこういう角度で添えて……」

「よーし、すぱぱぱぱ」

「……これのどこが千切りなのかしら。ここなんて、ちょっとホラ、真四角のキャベツの破片が全部横につながってる」

「困ったのー、いつになったら覚えるのかのー」

「この調子だと一生涯ムリそうね。まあいいわ、はい、お味噌を計量して。ねえ芽衣、」

「うーん?うわ美味いなーこの味噌」

「これ、聞いていいのかわかんないけど。芽衣のお母さんって、料理得意だった?」

「あー。うちのおかんね、おかん」

「話したくなければ、いいのよ」

「うんにゃ。大丈夫。おかんはね、最初は頑張ってくれてたみたいよ。おとんがおかしくなるまではね。うわこの煮干しもウマー」

「そう。そうだったの」

「おとんのこぶし炸裂してからは、おかんもおかしくなっちゃったみたいでさ。なんにもやらなくなった。煮干し、鍋に入れていい?」

「……あ、うん。いいよ入れて。それで芽衣って、あんまりその、子どもの頃食べてなくて、それで今も細いの」

「まあそんなことやね。栄養不良ってやつ?お、煮干しが泳いでるー」

「やっぱりそうだったんだ。ね、基本私は和食人間なんだけど、芽衣は洋食のほうがいい?なんか作れるメニュー、ある?」

「特にない。自信満々に、ない。でもね、」

「うん?」

「こうして類に教えてもらっていけば、何かできるようになる気がする。再教育。人より時間はかかるだろうけど、それでもあたいがも少し大人になるまで、時間的にはあともうそろそろだと思う」

芽衣

「あ、あとねー。ハイ、これ」

「?」

「誕生日プレゼント。じゃああたい、あっちへ行って筋トレに戻るから。好きに開けて、見てちょうだい」

「わかった、ありがとう…………って、え、何このかわいい財布!」

「財布よりも、中、見てみ。それじゃ」

「中?………何これこのアホな顔!」

「ご期待に応えることができたでしょうか?証明写真って難しいんだよ、鼻からプルーン落ちてきちゃってさ。撮影開始ボタンなかなか押せなくて、5分ほど苦労したね」