ハーバートの前にエスカルゴのワイン蒸しとチーズの盛り合わせが登場する。
「お、次のメシが来たじゃないか。俺の話ばかり聞いていないで、お前はまず食え」
「あたしのことならお構いなく。というかハービーさん、あなたこうして普通にあたしを相手にリークしちゃってるじゃないの、王さまの秘密」
「別にお前相手に漏れたところで何の損もなし、そもそも他の誰も聞いとらん」
「聞いてるよ、」
食堂の床からプレーリードッグが顔を出し、ハーバートに言う。ハーバート、エスカルゴをひとつプレーリードッグに投げる。
「これは賄賂だ、感謝して食え」
「おおきに」
プレーリードッグ、エスカルゴを口の中でモゴモゴ噛み砕きながら床下に潜って帰る。
「それで何だ、お嬢さんよ、いったいなんでお前は食わんのかね」
「レタスが萎びてるからよ」
「俺はそのサンドイッチのことを言ってるんじゃない。なんでどのメシにもろくに手をつけんのかと訊いてるんだ」
ハーバート、エスカルゴとチーズひとかけをリカコに向かって放り投げる。エスカルゴがリカコの左手そばでバウンドし、汁が手の甲に跳ねる。リカコ、紙ナプキンで手を拭く。
「もう、やめて。投げないでよ」
「答えになっとらん。答えよ、そこのベイビー」
「ベイビー呼ばわりも、やめて。あたし今年で28になったんだから」
「心は43かもしれんが見た目は12だな」
「43って!失礼ね」
「43と言われて失礼と立腹するお前のほうが失礼だわ。推定年齢47の俺はどうなる」
「人間に換算してってこと?」
「そうだ。ルボール星人換算ならば26,931.6歳だ」
「いちいち覚えていられないわ、そんな数」
「俺のことはほっとけ。なぜ食わん」
「きっちり規定どおりにしなくちゃダメなのよ、」
「何をだよ」
ハーバート、チーズをつまみ、頭から伸びた触覚の一方にチーズを近づける。
「何してるの」
「匂いを正確に嗅ぐためには触覚を用いる」
「気持ち悪」
「余計なお世話だ。で、何だ、規定どおりにってのは。そこまで言ったんなら教えろや」
リカコ、ミックスサンドひと切れをナイフとフォークで細長くカットしていく。リカコ本人の予定としては8本の【短冊】を作る模様。
「すべてきっちり、綺麗に、規定どおりよ。あたしの眉毛も、長さ7.25cm、縦幅1cm、左眉毛の毛の生え角度は南南西から北北東であるべきと決まってるの」