月夜に狩る人、喘ぐ人。-9

ハーバート、口を拭ったあとの紙ナプキンを床に放り投げ、椅子の上で短い両脚をばたつかせる。

 

「何言ってんだお前は?眉毛が何だって?南南西から北東だ?」

「北北東よ、」

「北東と北北東とでどんな違いが出るってんだよ」

「大問題よ!あたしのせ…」

「ちょっと待て。ピザトーストが食いたくなった。それとココア。デカいマグカップに入れて持ってこい、」

 

食堂のドアが開き、身なりの貧しいすす色のカピバラピザトーストとココアを運んでくる。カピバラの胸には十字架のペンダントが光っている。カピバラは震える手と涙目でハーバートの前にトーストとココアを置く。

 

「ご苦労。だが泣き真似しても御駄賃はやらん、」

「旦那さま、心貧しき私めにどうぞ御心を…」

「人違いだ。俺は救カピバラ主じゃねえ。退場!」

 

カピバラ、意気消沈して退場する。

 

「チーズが冷めてるじゃねえか。仕方ない、2秒で平らげてやる」

「やめてそんな品のない…」

 

ハーバート、リカコの忠告を無視してピザトーストを2つに折り、口にはめ込むように一気に頬張る。

 

「で、おばえの【せ】が何だっで?」

「食べ物口に入れたまま喋らないでよ。何の話だったっけ?」

「北東、北北東云々の違いがなぜそんなに大問題なのかという形而上学的な問いを俺はお前のために愛を込めて立ててやった」

「嘘ばっかり。まあいいわ、教えてあげる。つまりね、そういう違いがあると、あたしの世界が破壊されてしまうということなのよ」

「お前は建築家か何かか?設計が1ミリでもずれたらこの建物は倒壊いたします、みたいな物言いだな」

「そのとおり!あたしの眉毛の生える方向が角度を変えただけで、あたしのこのワンピースにひとつ余計なシワがついただけで、あたしのスコアからは1点が引かれてしまうの」