「最低。よくも飲み物でうがいなんてできるね」
「ポリフェノール効果を狙ってのものだ」
「宇宙人のくせになんでポリフェノールなんてことまで知ってるの」
「平均的ルボール星人は皆おしなべて健康意識が高い」
「あなたを除いてね、ハービーさん」
「そういえばお前、さっき面白いこと言ってたな。自分の周囲20センチ以内には人を入れないって」
「ええ。それがどうしたの」
「試してやろうか」
「え?」
「俺が試してやろうか」
ハーバート、短い脚で椅子を降り、長さ250センチメートルのテーブルに沿って全速力でリカコに近づく。リカコ、パニックを起こしてテーブルの上のグリーンピース、ミックスサンドイッチ、ミルクセーキ、鮭のムニエルについていたタルタルソースを投げつける。
「ちょっとやめてやだっ!!」
リカコ、ハーバートの触覚に掴みかかり、ハーバートを投げ飛ばそうとする。ハーバート、顔に直撃したタルタルソースを舐めながら、リカコの頭の上のリボンと髪の毛を引っ掴む。
両者、取っ組み合いの喧嘩。そこにホイッスルが鳴る。
「仕切り直し!」
星条旗柄の帽子を被ったピエロ男が再登場する(注:ここでは最初に着ていた星条旗柄のベストではなく、お洒落であることを見せつけて「帽子」である)。
ピエロ男は両者に割って入り、ふたりを引き離す。ハーバートとリカコ、ともにゼーハー息づきながら、乱れた衣服を整える。
「両者ともに、着席!おのおのの場所へ!」
ハーバート、シワだらけになった水色のネクタイをいじくり、舌打ちしブツクサふて腐れながら、椅子に座り直す。リカコ、席に戻るなり、両手に顔をうずめて泣き出す。