リカコ、お子様ランチセットを見つめ、さめざめと泣く。おまけのクマの人形がリカコに言う。
「オハナシノ・ツヅキヲ・キカセテ・クダサイ」
リカコ、紙ナプキンで鼻を拭い、お子様ランチのスパゲッティ・ナポリタンをフォークでつっつく。
「お婆ちゃん子だったのね、あたし。自分の両親にはてんでなつかないような。それで、ひいお婆ちゃんとはよく行動を共にしてた。お婆ちゃんのおうちへ遊びに行くと、いつもあたしのためにお菓子とか、ご飯のときにこういうおもちゃとか、旗とか、用意してくれてた」
リカコ、クマの人形を一度つまみ上げ、それから型抜きライスの上に刺さった国旗の楊枝を引っこ抜く。クマ、両腕をばたつかせて言う。
「サミシイデスカ」
「寂しいですって?あたしが殺したようなもんじゃないの!」
「チョットイミガ・ワカリマセン」
「俺にもわからんな、」
ハーバート、汁粉の入っていた椀を触覚の先でくるくる回しながら言う。
「たぶん心臓発作って言ってたじゃないか、お前。それにお前、ガキだったんだろ。お前に蘇生術が施せたとはとても思えんね」
「でもあたしの目の前で、ねえ、目の前でだったのよ。あたし、何かできたんじゃないかって、今でも思う」
リカコ、スパゲッティを1本だけ口に運ぶ。ハーバート、腕を組み、リカコに訊く。
「それでお前、食わなくなったのか」
「【食えなく】なったのよ、あるいは【食いたく】なくなった」
「婆ちゃんが死んだことと、お前が食えなくなることと、両者に何の関係があるのか、俺にはさっぱりわからんね。おいそこのクマ吉、オレンジジュース1杯とチョコウエハースを山ほど持ってこい」