「ルボールってのは歴史的に見て不思議な国でな、国王と大統領が併存してるんだよ。まあ、大統領といっても国民によって選出されるのではなく、結局のところ王室と縁故のある家系からしか出てこない。だから実質、何の革命もなく、昔っから王政を敷いてる国だっちゅうことだな。国民もそれに慣れっこになってしまった。そこへ俺みたいな志ある者が出てきたもんだから、さあ国全体が…」
「鮭のムニエルのおかわりお持ちしたよ、」
突如食堂にマーティン・レイノルズ教授が登場する。レイノルズ教授、片手に鮭のムニエルを2皿持ち、飄々たる足どりでテーブルに近づく。ハーバート、対抗意識満々の目でマーティンを見つめる。
「誰だお前、ずいぶんとイケメンじゃねえか」
レイノルズ教授、ハーバートとリカコ相手に笑顔で給仕する。
「博士と呼びなさい博士と、」
ハーバート、早速ムニエルにフォークを突き立てる。
「博士?俺だって博士だよ。お前いったいどこから来た」
「僕?僕ならホワイト・ヘイヴンって国から来たよ。もとはビレホウル王国ってところの生まれなんだけどね、落馬してホワイト・ヘイヴンに永住したの。19世紀から20世紀初めにかけての話なんだけどね。鮭はおいしいかな」
「19世紀だと?お前、今、西暦何年だと思ってる」
レイノルズ教授、したり顔で答える。
「2364年でしょう?ねえ、どう?鮭はおいしい?せっかく僕が持ってきたんだから、楽しんで食べてよ。そちらのお嬢さんもね、」
リカコ、マーティンの笑顔に頬を赤らめ、自分の席でもじもじしている。ハーバート、口を大きく開けて鮭を喰らう。
「まあ合格点だ、レモンで味が引き締まっとる」
「良かった」
「にしてもお前、2364年ってよく答えられたな」
「そりゃそうだよ。だって僕は博士だもの。君もそうなんだよね?ハーバート・ゴブラー教授」
「なぜ俺の名前まで知ってる」
「今言ったでしょう。僕は博士だからね、何でも知ってるんだよ。君の惑星の子どもたちがとりわけプロパガンダ作戦で犠牲になったのも、僕はかねてから話で聞いてるーーー」