「ハントケが何だって?」
「いや、だからね、ハントケ・イグネイシアス・マルニュストリエーブルくんがね」
「お嬢さん、お嬢さんのお名前はリカコさんでよろしいのかな?」
マーティン・レイノルズ教授、食堂の出入口ドアの向こうからひょっこり顔を出し、リカコにたずねる。リカコ、意表を突かれた様子で再び顔を赤らめる。
「あっ。ええ、はい。リカコなら私ですが」
「良かった!いや実はね、君にお客さんが来てるんだよリカコちゃん」
「お客さん?」
レイノルズ教授の後ろに青年がひとり立っている。青年はもじもじした様子で顔を覗かせる。
「こちらの青年なんだけどね。たまたま廊下ですれ違って、リカコさんはいらっしゃいますか?って。えっと君、確か名前はハントケ・イグネイシアス・マルルストリングエー…」
「マルニュストリエーブルです、」
「サスキア4号くん?」
リカコ、我を忘れて席を立つ。ハーバート、怪訝な顔でリカコを見る。
「誰だよサスキア4号って」
「エレナ王女?」
今度はハントケがリカコに向かって聞き慣れぬ名を呼ぶ。ハーバート、呆れ顔でハントケの口ぶりを真似て言う。
「おいおい、【エレナ王女】って!」
ハントケ、急ぎ足で食堂に入る。レイノルズ教授、笑顔でハーバートとリカコに言う。
「申し訳ない、次のメニューまで間が開いてしまったね。ゴブラー教授、君にはカツレツを用意したよ。それから【エレナ王女】、君にはキンと冷えた果物ジュースをね。もちろん、ハントケくんの分もね」
ハントケ・イグイネシアス、レイノルズ教授にポンポン肩を叩かれ赤面する。
「それじゃあ僕はこれで。揚げ芋食べに、奥さん待たせてるんだ。奥さんに怒られるとイヤなので、このへんで切り上げさせてもらうよ。また、あとでね」
マーティン・レイノルズ教授、右腕で大きく半円を描く。するとテーブルの上にはカツレツと果物ジュースのグラスがふたつ現れる。レイノルズ教授、安心した様子で笑顔でその場を去る。