月夜に狩る人、喘ぐ人。-31

ハーバートの要求に給仕は誰ひとり来ない。代わりに、テーブルの中央が開き、下からスペアリブをよそった大皿が現れる。

 

「ご苦労!注文のたびにピエロやらおかしな生き物が出てこなくて、よろしい!」

 

ハーバート、手当たり次第、手掴みで食べ散らかしていく。豚肉の破片がテーブルの上にも床にも激しく飛び散っていく。それを見たハーバート、ますます食べるスピードを上げていく。リカコ、疑わしそうな目つきでハーバートを見る。

 

「ねえ。いいニュースなんだったら、あなたのその食べ方も良くなっていくと思うんだけど、違うの?」

 

ハーバート、スペアリブを引っ掴む手の勢いがおかしなほど速くなっていく。

 

「ねえ、聞いてるの」

 

ハーバート、答えずひたすら肉を喰らい続ける。

 

「あなたの星の子どもたちが反抗して世の中変えていくんなら、あなたにとっては喜ばしいことなんじゃないの?トラウマっていうか、そういう過去のショックはもう、癒えていくんじゃない?なのにどうして今もーー」

「祝いのときもこうやって大いに丸飲みするようになっちまった、」

 

ハーバート、骨にしゃぶりつきながら答える。

 

「俺は実はな、」

「?」

「実は俺がな、と言うべきだな」

「何?何のこと?」

「俺なんだよ。体内で書き換わるような栄養素を発明したのは」

「えっ?」

「正確には2度書き換わるように、栄養素に細工をしたのが俺だ。化学実験室でな。役人連中をうまくそそのかして、栄養素のサンプルを事前に分けてもらっていた。その後、【品種改良】さ。言っただろ、俺は教授だって」

「でも、当初子どもたちに被害が出たのが、あなたショックだったって…」

「確かに、予想外の動きはあったからな。けれども最終的には狙いどおりだった、子どもたちの体内遺伝子情報がひっくり返って、王に歯向かい暴れ出した。ただ残念なことにな、」

「?」

 

ハーバート、しゃぶり尽くした骨を5本、7本と宙に投げる。

 

「この新聞記事で判明したんだ。俺の娘が犠牲になったってことがな」

「えっ…」

 

ハーバート、脂にまみれた指先を丸めた新聞紙の中でこすり合わせる。リカコ、下を向いて口をつぐむ。

 

「お前が気にすることではない、」

「でもあの、それがもし本当に記事のとおりだとしたら、あのあたし、何て言えばいいのか」

「何も言う必要はない、」

 

ハーバート、スペアリブの最後の1本を口に対して直角に持ち、喉の奥に力強くねじ込む。リカコ、慌てて席を立つ。

 

「ちょっと何してるのハービーさん!」

「お祝い事と御不幸が揃ってやって来ましたとさ、だな。こうして俺は」

 

その瞬間、ハーバートの喉からガゴゴゴゴシュッと不気味な音が鳴る。そしてその直後、ハーバートの丸い胴体がゴトゴト左右小刻みに揺れ出し、パーンッと爆発音が1回起きる。

 

リカコ、思わずテーブルの下にうつ伏せになる。リカコの足もとにまで煙が充満する。1分ほど経過したのち、せき込みながら顔を起こすと、目の前の光景にリカコは再び嘔吐するーーーそこには破裂して四方八方に飛び散ったハーバートの死体があり、リカコに視認できるものといえばハーバートの喉に刺さったスペアリブの骨1本だけだった。