おかしい

かつて美と称されたもの、

少なくとも僕が「そうだ」と決めたもの。

 

冬の雪道のなか、

夏の乾いた空のもと、

ライトアップされた市中の石畳の上、

打ち寄せる波、

おんぼろアパートの中層階の窓から顔を出して「あら、お元気?」と声を張り上げる女性の姿のなか。

 

いろいろなところに

かつて美と称されたものを

今日 僕は見た、確かに見たつもりだ。

 

そしてそいつは

…いや、僕自身が、なのか?

目の前をすり抜けて

僕の皮膚なんてかすりもせずに

スッと出て行った

20年前の亡霊みたいに。

 

そして僕の言葉も

もはやそいつを捕まえようとはしない、

そいつのまとっている衣服に

フッと息を吹きかける程度で

あらぬ方向へと走っていく。

 

昔むかし、奴と僕をつないでいた鎖は

こんなにも頼りがいのない糸になった、

僕は額縁の中の古ぼけた景色から抜け出して

まるで宇宙船にでも乗り込んだかのように

未知の星目指して 

暗闇に突入するのを

期待している。