いくらでもいただくわ

「それで貴女は、欲しいもの好きなものは何でも丸飲み、なのですね?」

「そうよ。人間、皆そうあるべきなのよ。あ、プラットフォーム変更になった。6aに行きましょう」

「この国の鉄道、どうしてこうも直前に発着場所が変わるんですかね。僕はいまだに、慣れませんよ」

「あなたこちらに住み始めて、何年?」

「今年の10月で丸2年です。まだまだわからないことばかりで」

「もっと街を歩いてみることね。いい喫茶店も沢山ある」

「喫茶店と言えば。先ほどは洋酒入りのチョコレートボールを、よくもまああれだけ召し上がって」

「私は酔いませんよ。めまいも起こさない。さっきあなたにも言ったけれども、ねえ、好きなものを好きなだけいただくというのは、とってもとっても大切なことなのよ」

「いやあ、僕はメアリーさんのようには上手に加減というものはできませんよ。過ぎたるは何とか、と言いますけど、僕は過ぎたる・過ぎたる・過ぎたるの繰り返しでヘマばかり」

「女性関係もそうかしら?」

「とんでもない。そこは僕はしっかりしています。ああ、この列車ですね。出発時刻まであと8分ほどか。間に合って良かった」

「人はどんなものもね、ハイベルクさん、自分自身の幸せのために体に収めなくちゃダメなのよ。だって、この世って、とっても楽しいことで埋め尽くされているじゃない。その楽しいことであなたご自身をお創りにならないで、いったい他に何をするとでも?」

「メアリーさんのように懐に余裕がおありなら、誰しもそうすべきなんでしょうが。さ、どうぞ、先にお乗りください」

「あら随分と紳士的。ありがとう」

「移動中に召し上がるビスケットもお持ちしましたよ、僕」

「今日は気が利くこと」

「メアリーさん」

「何かしら」

「この世は本当にそんなに、メアリーさんのおっしゃるように楽しいものなんでしょうか」

「僧院出戻りの私が言うんだから、真実よ」

「はあ。そうなのかなあ」

「冗談。ウソよ」

「え?」

「ああ、席はあそこね…」

「メアリーさん。ウソよって、何がウソなんです?僧院の件がウソだということ、ですか?それともこの世が楽しいということが」

「出戻りの話は本当。ウソなのは私の気持ち。私はどこにいても楽しくはないわ。でもこの世は僧院の中よりも、僧院の中にいた私の気持ちよりもウソがない。まだ純粋よ」

「そうなのですか」

「ええ。だからねハイベルクさん、私、自分の体をよりウソのないもので満たし直しているの。確かに私、どこにいてももう何も楽しくないけれど、『何がまだましか?』と問いかけるだけのアタマはまだあるの」

「あとでこのビスケットに合うお茶を車内で買いましょう。添加物ゼロ、混じりけのないせっかくの高級菓子ですから」

「ありがとう。いくらでも喜んでいただくわ。お祈りよりも私の身を清めてくれたらいいのだけど」