あなたも知ってる若者たちさ!-2

場面変わって、家巣と仁伊地の通う大学の小講堂。


壇上には心理学科3年生の奇留家が立っている。そして最前列の長机のちょうど真ん中に、19歳の間倉田真理亜(まぐらだ・まりあ)が座っている。


ガラス窓を通して入ってくるまぶしい日の光に奇留家はしかめ面をし、一度講壇を降りて窓際のカーテンを閉めに行く。


「で?君には無理だ、と?」


奇留家はカーテンのタッセルを右手でもてあそびながら、真理亜に訊ねる。真理亜、口を尖らせて答える。


「だって、食べるだけならまだしも、トレーニングのときは皮から作ってくれって言われたのよ。そんな面倒臭いこと、」


「しかも米粉を使え、と?」


「そうなの。要求多すぎない?僕ぁグルテンフリーでベジタリアンサステナブルな食生活を実践しているから、そこは君にも手助けしてほしい、ですって」


「そのくせ彼は大会に出場するつもりなんだね」


「そう。それに、どうして私なんかを相棒に選…」


「申し訳ないが時間だ、」


奇留家、腕時計に目をやり、長机に座る真理亜のもとへ歩いて行く。そして真理亜の顔の真正面に自分の右手を突き出す。


「今日のセッションはこれで終了。はい、30分800円」


真理亜はスカートの両ポケットに両手を突っ込み、あからさまに嫌そうな顔をする。

 

「また料金取るのね」


奇留家、そんなのは当然だとでもいう素振りで微笑む。


「僕は実習生だからね。君からの個人的な依頼による心理カウンセリングでも、報酬はきっちりいただくよ」


「今、千円札しかないの。お釣りもらえる?」


「おっと、すでに1分オーバーだ。残念だが200円上乗せさせてもらうよ」


「信じられない。もういい、【これで豚の生姜焼き定食でも食べな】」


真理亜は千円札を奇留家に手渡す。すると廊下から猫の鳴き声が聞こえてくる。奇留家は真理亜から千円札を受け取ると、素早く三つ折りにしてワイシャツの胸ポケットに突っ込み、廊下のほうへと歩いて行く。


「その声は吉田くんだな、」


奇留家は静かにドアを開けて下を見る。


「何、吉田くんって…」


怪訝そうに真理亜が首を伸ばして奇留家の足もとを見ると、そこには金色の鈴をつけた黒猫が1匹鎮座している。奇留家はドアをすっかり開け放って、笑顔で「吉田くん」を招き入れる。


「この子とは旧知の仲でね。あれは僕がこの大学に入学したての頃だ。新入生歓迎会の帰り道、この講堂の正面玄関で運命の出会いを遂げた。さあ入りたまえ、吉田くん」