あなたも知ってる若者たちさ!-6

日付は一気に飛んで、餃子大食い大会当日。大学敷地内にある小さな運動場。運動場のど真ん中には調理・盛り付けコーナーがあり、長テーブルとパイプ椅子の大群が、コロッセウムさながらにコーナーの周りを囲んでいる。家巣拓海(いえす・たくみ)は完成した野菜みじん切りマシンを調理コーナーの脇に置く。


「時間は今…あ、まだ10時半か。キャベツとニラ、それからにんにくを刻むのは12時でいいかな。スタート時刻は14時なので、焼くのにかかる時間を1時間と見て…」


「やあやあ家巣くん、とうとう本番だね、」


パリッと糊のきいたワイシャツ姿の奇留家剛(きるけ・ごう)が現れる。その腕には先日と同様、黒猫の吉田くんが心地良さそうに抱かれている。家巣、大きな白のトートバッグに詰めた野菜を指差して、笑う。


「やあ奇留家くん。ちょっとこれを見てくれ。これだけの野菜が、本日僕と君の彼女の胃袋に収まるんだよ」


奇留家、イヤそうに顔を歪める。


「彼女って誰のことさ」


「Miss間倉田だよ、当然じゃないか。今日ここで僕と共に戦いに挑む力量のある女といえば、Miss間倉田しかいないじゃないか」


「まあ、ジンベイザメだからね」


奇留家、吉田くんの頭を撫でる。吉田くん、気持ちがいいのか、文字どおり猫撫で声を上げる。


「とにかく、今日は家巣くんには頑張ってもらわないとね。ベジタリアンサステナブルな食生活を好む君としては、肉は入れないのかな?」


家巣、奇留家の質問にニコリと笑い、「業務用ソイミート(ミンチタイプ)1㎏」の袋をテーブルの下から次々と引っ張り出す。


「そのとおり。文字どおりにイエスさ。そして餃子の皮は間倉田王女が自宅から運んできてくれる予定だよ。米粉オンリー、グルテンフリーのプレミアム・アイテムだね」

 

※※※※※※

 

時刻は12時半。調理コーナー脇に設置された野菜みじん切りマシンが、規則的な音とともにキャベツとニラ、にんにくを刻んでいく。家巣は出来上がったみじん切りの山をスコップですくい、大型のタッパーに入れていく。


テーブルの上にはすでにいくつかのタッパーが並べられていて、どれもみじん切り野菜でいっぱいだった。そのうちのひとつは蓋が閉まりきっておらず、中身が見えている。


そしてテーブルの下には黒猫の吉田くんがいる。首輪につけられた鈴は、以前から糸が緩んだままだった。吉田くんはテーブルの脚に自分の体を何度かこすりつけ、上機嫌で「むひゃお」と小声で鳴くと、ひょいっとテーブルの上に飛び乗る。


家巣は吉田くんに背を向け、スコップを片手にみじん切りマシンの様子を見ている。調理コーナー周辺には他に誰もいない。吉田くんは半分蓋の開いたタッパーに右前脚を伸ばす。吉田くんがちょこちょこといじると、蓋はペロンと外れる。


吉田くんは後ろ脚で立ち、熱心にみじん切り野菜の山を引っかき回す。上半身を勇ましく左右に動かすと、その揺れで首輪の鈴が外れ、ポトリとみじん切りの畑の中に落ちる。吉田くんはそれには全く気づくことなく、その後1分間ほど「畑」を掘り続ける。そしてひとしきり無茶苦茶に掘り返して満足すると、静かにテーブルを降りて大学の講堂へと帰っていく。